田村ゆかり LOVE LIVE 2011 SPRING *Mary Rose* (2011.4.15/16)

本公演の開催は、STARRY☆CANDY☆STRIPE(SCS)の最終日である2010年10月30日に、田村ゆかり本人の口から告知されたわけだが、当時は「半年もたたずに次のライブかあ、(ゆかりんにしては)結構間隔が短いなあ」と思ったものだ。

だが、時は経って2011年3月11日に世界はがらりと変貌し、もはや2010年は遥か彼方へと過ぎ去ってしまった。まさか本人や主催者とは関係ないレベルで開催が危ぶまれることになるとは……。そして、気が付くと、震災後に武道館でライブを行う最初のアーティストとして田村ゆかりはその名を刻むことになってしまったのだった。

地震速報や強い揺れを感知したらただちにライブ中断、震度5以上ならライブ中止。1月は経ったっとはいえ、余震が続き、まだ完全に震災は過ぎ去っていない中での開催というのは、本人にとってもスタッフにとっても、すさまじいプレッシャーや苦労があったことであろう。そんな中、二日間とも盛況のうちに無事ライブが終了したのは、奇跡としか言いようがない。まあ、二度と経験したくない類の奇跡ではあるけれど。

とはいえ、セットリストや全般的な演出については、(表面的には)震災を意識したものにはなっていなかったし、田村ゆかり本人からは(直接的には)震災そのものについて触れることはなかった。涙や感動の押し付けみたいなことは避けたかったのだろうし、あくまでエンターテイメントとして楽しんで欲しいという意図があったのだろう。

と、いうことで以下は、なるべくライブそのものに絞ってかたちで感想を述べておきたい。

演出について

今回まず触れておきたいのは、OPが素晴らしかったということだ。スクリーン上にて奏者の名前やダンサー(桃色メイツ、桃猫団)が紹介されると共に、それぞれが舞台に上がり音やダンスでステージを彩ってゆく。そして、最後に「田村ゆかり」の名前がスクリーン上に表示されて本人が登場、大歓声と共に1曲目が始まるという演出は実に高まるものがあった。これまで自分が見てきた田村ゆかりのライブの中ではベストなOPだったと思う。

その他については、全般的にこれまでの演出を引き継ぎつつ、武道館というキャパに合わせて発展させた感じ。
なかでも印象的だったのは、「神聖炉」〜「星空のSpica」/「Beatiful Amulet」の間にわたって、ゆかりんが高く吊るされたゴンドラに乗ったシーンだろう。頼むからこの間だけは地震が来ないでくれ、とは会場にいる誰もが思ったはずだ。特に二日目は、何が起きるのかわかっていた為、曲が始まる前から見ていて嫌な汗をかいてしまった。何事も無くて本当によかった。

さらに興味深かったのは、「fancy baby doll」で、ステージだけではなく、会場内のライトが一斉に点灯したこと。これはおそらく、恒例のぬいぐるみ投げの際、観客がキャッチしようとして転倒するような事故を防ぐという意図があったのだろう。なにせ、今回はバズーカを使って傾斜が急な一階席、二階席にも飛ばしていたので、足元が暗いと、ぬいぐるみ争奪戦の際に足を滑らせて将棋倒しになったり、アリーナへ落下してしまう恐れがあったわけで。
ただ、もう一点、ゆかりんだけではなく観客のみなさんが参加して完成する曲なんですよ、ということを暗に意味していたのかもしれないな、とも思う。この辺りは、「You & Me」や、めろ〜ん音頭など観客参加型ライブを主催者側が意識しているということなのかもしれない。

演奏について

前回の武道館では、バンドメンバーを舞台の高い位置に上げ、田村ゆかりと桃色メイツのダンスワークを強調していたのだが、今回はメンバーを下に降ろし、桃色男爵の存在感が増すようになった(これはPrincess a la modeからの傾向ですね)。
さらに、要所要所で桃色管系ことブラスバンドが加わり、それぞれの曲のアレンジがより楽しめるようになった。これは、SCSから(正確にはPrincess a la mode最終日から)加わったGODこと竹上良成氏のサックスと、ゆかりんの相性が良かったことを受けてのものだろう。本公演では、冒頭の「LOVE ME NOW!」や、「Super Special Day」あたりのブラスアレンジが印象に残っている。また、「fancy baby doll」の間奏でのピアノとサックスの掛け合いも楽しかった。「恋に落ちたペインター」は、SCSではなくて今回の武道館に持ち越した介がありましたね。
逆に、ギターは割を食った感じで、ジャックこと増崎孝司の演奏がこれまでほど目立たなくなった感じがしなくもなかった。終盤の「Cherry Kiss」や「Super Special Smiling Shy Girl」あたりはさすがの存在感たったけれど、できれば中盤に「Tomorrow」みたいな曲がひとつ入って欲しかったかな、と思わなくもない(まあ、このあたりはBD/DVDで観ると印象が変わることもあるかもしれないけれど)。

セットリストについて

前回のライブから発売されたのは1枚のシングル+会場限定CDのみにも関わらず、ライブで初めて歌われた曲は8曲もあったり、「Picnic」や「Spring fever」、「Baby blue sky」、「Super Special Day」など懐かしい曲もあったりと、新旧をうまくとりまぜていた感じ。
全体としてパラエティに富んでいて、一時に見られた中盤の中弛み感みたいなものは無かったのではないか。

「Spring fever」は2005年春のライブ以来で、一日目に聴けたときはめちゃめちゃ感動したのだが、二日目は「天使のお仕事」に差し替えられていたのは、とても残念。個人的には田村ゆかりが歌う橋本由香利曲の最高傑作だと思うんだけどなあ。ここはBD/DVDでも聴きたかったことである(収録はおそらく二日目の曲のみになるはず)。

終盤については、おなじみの曲をずらっと並べて、比較的新規に来た人もちゃんと楽しめるようになっていた。個人的には、「この指とまれ」がタオル曲になっていたり、「ラブラブベイビーハッピースター」がパペット曲になっていたりと、演出側が観客へ、一種の提案みたいなものをしていたのも面白かった。

なお、「恋に落ちたペインター」と「神聖炉」が本公演で歌われたことで、「シトロンの雨」収録曲は全てライブで披露されたことになる。ちなみに、ちゃんと収録されていれば今度のBD/DVDで全曲聴けるわけで、とても幸せなアルバムだったなと思う。

ライブが終わってみて

まあしかし、SCSでも感じたんだけど、キャリアを重ねてきただけあって、25曲ではだんだん物足りなくなりつつありますね。本人の負担が結構あるだろうけれけど、30曲くらいいかないと、色んな層をカバーできなくなりつつあるんじゃなかろうか。ツアーではキツイかもしれないけれど、いわゆるスペシャルライブの類については、今後はもう少し曲数が増えるんじゃないかなと思っている。

また、前回の武道館は「ついにここまで来たか」みたいな感じだったが、今回の武道館は会場としては最早手狭になってきた感がある。今後の予定については夏以降は何も決まっていないとのことだが、ファンクラブイベントの日程さえ出てこないあたり、次の会場を押えるのに苦労しているんだろうなあという感じがする。

こうした課題があるということは、田村ゆかりのライブはより進化していく余地があるということも意味しているわけで、さらに完成度の高い公演が楽しめることを期待してやまない。「LOVE LIVE 2011 SUMMER」とかはきついかもしれないが、AUTUMNとかだといいなあ。

セットリスト

15日と16日で違う曲の場合は、「/」で区切っている

  • LOVE ME NOW!
  • Picnic
  • Happy Life
  • プラチナLover's Day
  • Spring fever / 天使のお仕事
  • Don't wake me☆Up
  • 流れ星ジェニー
  • YOURS EVER / 宵待ちの花(それぞれアコースティックVer)
  • floral blue
  • Baby blue sky
  • Super Special Day
  • 恋におちたペインター
  • 恋のアゲハ
  • 神聖炉
  • 星空のSpica / Beautiful Amulet
  • めろ〜ん音頭〜Festival of Kingdom〜
  • おしえて A to Z
  • You & Me
  • 恋せよ女の子 / ラブラブベイビーハッピースター
  • Cherry Kiss
  • この指とまれ
  • チェルシーガール

(以下アンコール)

  • Gratitude
  • fancy baby doll
  • Super Special Smiling Shy girl