演じるということの空虚さ〜田村ゆかり LOVE ♡ LIVE 2013 Autumn *Caramel Ribbon* (9/16)

台風の襲来に始まり、まさかの土下座によるダブルアンコール実現で終わるという 、話題満載のライブだったわけだが、内容自体も色々なネタが詰まっていた。

前回のさいたまスーパーアリーナで行われたCCHは、これまでの音楽活動の総集編的なラインナップであったと言えるだろう。それでは、今回はというと、2012年以降(具体的にはILR以降)にちょこちょこと行われてきた演出の総決算的な内容になっていた。

ILR以降の演出というのは、一言で言うと、田村ゆかりの「もっとちやほやされるアイドル人生を送り直したい!」という妄想をかなえるためのネタ映像群である。
アイドルオーディションに合格したりとか、(ベストテンとかトップテン)で上位に来たりとか、バーチャルデートしたりとか、とにかく「若い時にこんなことをしたかった><」という妄想というか執念がダダ漏れになった映像を田村ゆかりは最近のライブやイベントでずっと流し続けていた。今回のライブは、そんな映像の総集編ということができる。

まず、ちやほやされる若手アイドルとして「神楽坂ゆか」というキャラクターを作り直し、デビュー経緯の映像を長々とライブ冒頭で上映し、さらには前座という体で本人(?)が登場し、歌も歌っていた(あとでtwitterアカウントも開設した)。また、バーチャルデートの続編も作られ、雨の諏訪湖でのデートした様子が流された。さらには、11月に出るアルバム曲のMV撮影という体で、田村ゆかりの姉妹(?)たちが参加した様子もこれまた映像で流されていた。さらにさらに、田村ゆかり平安時代の姫に扮して月を見上げる、よくわからんMVも流れていた。

ライブなのに、映像ばかりなの? と思う人もいるかと思うが、本当に映像ばかりだった。今回のライブは「田村ゆかりが何曲か歌う」→「観客が椅子から立ち上がって盛り上がる」→「田村ゆかりが舞台からはけてネタ映像が長時間流れる」→「観客が椅子に座って長時間黙って見る」の繰り返しであった。


で、自分が思うのは、どんくさい進行に対する不満もあるんだけれど、「なんでそんなに他人を演じたがるの? そんなに今の自分がイヤなの?」ということだ。そもそも、「田村ゆかり」自体も17歳教だったりとかゆかり王国ゆかり姫とか虚構性が高いキャラクターなのだが、さらに別のキャラクターを次々と演じるというのは、どういうことなのであろうか。演技という面では、声優なんだからいくらでもやっていると思うのだが、さらにワンマンライブでも別のキャラクターをあれやこれや演じたがるというのは、なんというか病的なまでの自己嫌悪というか自己否定を感じてしまう。

自分としては、田村ゆかり本人の人生の方が神楽坂ゆかなんかよりずっと素晴らしいし、魅力的だよと言いたいし、これまでの声優人生を素直に肯定したライブが観たいと願っている。でも、そんなライブは当分は無いんだろうなと諦めているし、(私の主観的には)みっともない映像を楽しめるのが今の王国民でいられるための条件なんだろう。


で、それはそうとして、ライブの演奏自体は大変素晴しいものだった。まず何よりも、田村ゆかりの調子が良かった(ように見えた)。これは、横浜アリーナの音響設備が良いということもあるんだろうけれど、声がとても良く出ていた。自分が覚えている中では、1、2を争うパフォーマンスだったのではないか。

バンドメンバーは、キーボードに安部潤、ギターに黒田晃年が参加しており、なんだか桃色男爵とThe 39'sの混合チームになっていた。全体的には、音量がキーボード寄りになっていたような気がしなくもない(途中からギターが全然聞こえなかった)。また、2011年春のMaryRose以来、久々に桃色管系が参加(しかも10人編成)し、全員が揃うところは壮観だった。特に下手側にいた4人の桃色管系メンバが実に楽しそうに演奏していたのが印象的。

セットリストは、「神様Rescue me!!」とか「Cursed Lily」あたりがあって、なんだかSCSっぽかった(そういえば台風が直撃したのもSCS以来だった)。神楽坂ゆか部分を除けば割りとスタンダートな選出だったのではないかと思う。ただし、全員での演奏はあまりなくて、大半がバンドメンバー4人(ギター・キーボード・ベース・ドラム)だったのは不満。せっかくホーン隊がいるんだから、「恋に落ちたペインター」とか「好き…でもリベンジ」とかを歌ったりしてもよかったんじゃないかなあ。MaryRoseでは「Super Special Day」のブラスアレンジが白眉だったわけだが、今回のライブではそれに対応した曲は見当たらなかった。

まとめると、今回のライブは、無駄に長くて痛くて間延びした最悪の演出だったが、音楽的にはここ数年では一番の出来だった(が、もっと良くなる余地はあった)。来年のツアーも、このメンバにしてほしいんだけど無理だろうなあ。

セットリストは以下を参照のこと
http://www.setlist.mx/concerts/14908